ほうをのぞくようにして返辞を言っていた。少し痩《や》せて可憐《かれん》さの添った顔を見ながら源氏は、それを他人に譲るとは、自身ながらもあまりに善人過ぎたことであると残念に思われた。
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「下《お》り立ちて汲《く》みは見ねども渡り川人のせとはた契らざりしを
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意外なことになりましたね」
涙をのみながらこう言う源氏がなつかしく思われた。女は顔を隠しながら言う。
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みつせ川渡らぬさきにいかでなほ涙のみをの泡《あわ》と消えなん
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源氏は微笑を見せて、
「悪い場所で消えようというのですね。しかし三途《さんず》の川はどうしても渡らなければならないそうですから、その時は手の先だけを私に引かせてくださいますか」
と言った。また、
「あなたはお心の中でわかっていてくださるでしょう。類のないお人よしの、そして信頼のできる者は私で、他の男性のすることはそんなものでないことを経験なすったでしょう。と思うと私はみずから慰めることもできます」
こんなことも言われて、苦しそうに見える玉鬘《たまかずら》に同情し
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