とりになりますから、拝見する私たちまでもお気の毒になってなりません」
 袖で口をおおうて言っている木工の君の目つきは大将を十分にとがめているのであったが、主人《あるじ》のほうでは、どうして自分はこんな女などと情人関係を作ったのであろうとだけ思っていた。情けない話である。

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「うきことを思ひ騒げばさまざまにくゆる煙ぞいとど立ち添ふ
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 ああした醜態が噂《うわさ》になれば、あちらの人も私を悪く思うようになって、どちらつかずの不幸な私になるだろうよ」
 などと歎息《たんそく》を洩《も》らしながら大将は出て行った。中一夜置いただけで美しさがまた加わったように見える玉鬘であったから、大将の愛はいっそうこの一人に集まる気がして、自邸へ帰ることができずにそのままずっと玉鬘のほうにいた。大騒ぎして修法などをしていても夫人の病気は相変わらず起こって大声を上げて人をののしるようなことのある報知を得ている大将は、妻のためにもよくない、自分のためにも不名誉なことが必ず近くにいれば起こることを予想して、怖《おそ》ろしがって近づかないのである。邸《やしき》へ帰る時
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