子には、だれからも反感を持たれるのに十分な利己主義者らしいところがあった。
 大将の妾《しょう》のようにもなっていた木工《もく》の君や中将の君なども、それ相応に大将を恨めしく思っていたが、夫人は普通な精神状態になっている時で、なつかしいふうを見せて泣いていた。
「私を老いぼけた、病的な女だと侮辱なさいますのはごもっともなことですが、そんなお言葉の中に宮様のことをお混ぜになるのを聞きますと、私のような者と親子でおありになるばかりにと思われて宮様がお気の毒でなりません。私はあなたのお噂《うわさ》を聞くことが近ごろ始まったことでも何でもないのですから、悲しみはいたしません」
 と言って横向く顔が可憐《かれん》であった。小柄な人が持病のために痩《や》せ衰えて、弱々しくなり、きれいに長い髪が分け取られたかと思うほど薄くなって、しかもその髪はよく梳《す》くこともされないで、涙に固まっているのが哀れであった。一つ一つの顔の道具が美しいのではなくて、式部卿の宮によく似て、全体に艶《えん》なところのある顔を、構わないままにしてあっては、はなやかな、若々しいというような点はこの人に全然見られない。
「宮様
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