っていた。親がすべきことではないが。
「和歌はどうやらこうやら作りますが、長い自身の推薦文のようなものは、お父様から書いてお出しくださいましたほうがと思います。二人でお願いする形になって、お父様のお蔭《かげ》がこうむられます」
 両手を擦《す》り合わせながら近江の君は言っていた。几帳《きちょう》の後ろなどで聞いている女房は笑いたい時に笑われぬ苦しみをなめていた。我慢性《がまんしょう》のない人らは立って行ってしまった。女御も顔を赤くして醜いことだと思っているのであった。内大臣は、
「気分の悪い時には近江の君と逢《あ》うのがよい。滑稽《こっけい》を見せて紛らせてくれる」
 とこんなことを言って笑いぐさにしているのであるが、世間の人は内大臣が恥ずかしさをごまかす意味でそんな態度もとるのであると言っていた。



底本:「全訳源氏物語 中巻」角川文庫、角川書店
   1971(昭和46)年11月30日改版初版発行
   1994(平成6)年6月15日39版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しま
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