わり]

 こう言う大臣に悲しいふうがあった。玉鬘《たまかずら》は父のこの歌に答えることが、式場のことであったし、晴れがましくてできないのを見て、源氏は、

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「寄辺《よるべ》なみかかる渚《なぎさ》にうち寄せて海人も尋ねぬ藻屑《もくづ》とぞ見し
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 御無理なお恨みです」
 代わってこう言った。
「もっともです」
 と内大臣は苦笑するほかはなかった。こうして裳着の式は終わったのである。親王がた以下の来賓も多かったから、求婚者たちも多く混じっているわけで、大臣が饗応《きょうおう》の席へ急に帰って来ないのはどういうわけかと疑問も起こしていた。内大臣の子息の頭《とうの》中将と弁《べん》の少将だけはもう真相を聞いていた。知らずに恋をしたことを思って、恥じもしたし、また精神的恋愛にとどまったことは幸《しあわ》せであったとも思った。
 弁は、
「求婚者になろうとして、もう一歩を踏み出さなかったのだから自分はよかった」
 と兄にささやいた。
「太政大臣はこんな趣味がおありになるのだろうか。中宮と同じようにお扱いになる気だろうか」
 とまた一人が言ったりし
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