実際これが幸福でなくて何であろうと思われた。
「今朝《けさ》皆が鏡餠の祝詞を言い合っているのを見てうらやましかった。奥さんには私が祝いを言ってあげよう」
少し戯れも混ぜて源氏は夫人の幸福を祝った。
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うす氷解けぬる池の鏡には世にたぐひなき影ぞ並べる
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これほど真実なことはない。二人は世に珍しい麗質の夫婦である。
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曇りなき池の鏡によろづ代をすむべき影ぞしるく見えける
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と夫人は言った。どの場合、何の言葉にもこの二人は長く変わらぬ愛を誓い合うのであった。
ちょうど元日が子《ね》の日にあたっていたのである。千年の春を祝うのにふさわしい日である。姫君のいる座敷のほうへ行ってみると、童女や下仕えの女が前の山の小松を抜いて遊んでいた。そうした若い女たちは新春の喜びに満ち足らったふうであった。北の御殿からいろいろときれいな体裁に作られた菓子の髭籠《ひげかご》と、料理の破子《わりご》詰めなどがここへ贈られて来た。よい形をした五葉の枝に作り物の鶯《うぐいす》が止まらせてあって、それに手紙が付けら
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