源氏物語
初音
紫式部
與謝野晶子訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)啼《な》く

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)浦島|今日《けふ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から3字上げ]
−−

[#地から3字上げ]若やかにうぐひすぞ啼《な》く初春の衣《きぬ》くば
[#地から3字上げ]られし一人のやうに    (晶子)

 新春第一日の空の完全にうららかな光のもとには、どんな家の庭にも雪間の草が緑のけはいを示すし、春らしい霞《かすみ》の中では、芽を含んだ木の枝が生気を見せて煙っているし、それに引かれて人の心ものびやかになっていく。まして玉を敷いたと言ってよい六条院の庭の初春のながめには格別なおもしろさがあった。常に増してみがき渡された各夫人たちの住居《すまい》を写すことに筆者は言葉の乏しさを感じる。春の女王《にょおう》の住居はとりわけすぐれていた。梅花の香《かおり》も御簾《みす》の中の薫物《たきもの》の香と紛らわしく漂っていて、現世の極楽がここであるような気がした。さすがにゆったりと住みなしているのであっ
次へ
全19ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング