勝手すぎた話である。やっと出て来た。
「どうもわかりません。九州に二十年も行っておりました卑しい私どもを知っておいでになるとおっしゃる京のお方様、お人違いではありませんか」
 と言う。田舎《いなか》風に真赤《まっか》な掻練《かいねり》を下に着て、これも身体《からだ》は太くなっていた。それを見ても自身の年が思われて、右近は恥ずかしかった。
「もっと近くへ寄って私を見てごらん。私の顔に見覚えがありますか」
 と言って、右近は顔をそのほうへ向けた。三条は手を打って言った。
「まああなたでいらっしゃいましたね。うれしいって、うれしいって、こんなこと。まああなたはどちらからお参りになりました。奥様はいらっしゃいますか」
 三条は大声をあげて泣き出した。昔は若い三条であったことを思い出すと、このなりふりにかまわぬ女になっていることが右近の心を物哀れにした。
「おとど[#「おとど」に傍点]さんはいらっしゃいますか。姫君はどうおなりになりました。あてき[#「あてき」に傍点]と言った人は」
 と、右近はたたみかけて聞いた。夫人のことは失望をさせるのがつらくてまだ口に出せないのである。
「皆、いらっしゃい
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