あった。ちょっと彼らの目の前で話をしても博士らは叱《しか》る、無礼だと言って何でもないこともとがめる。やかましく勝手気ままなことを言い放っている学者たちの顔は、夜になって灯《ひ》がともったころからいっそう滑稽《こっけい》なものに見えた。まったく異様な会である。源氏は、
「自分のような規律に馴《な》れないだらしのない者は粗相をして叱りまわされるであろうから」
 と言って、御簾《みす》の中に隠れて見ていた。式場の席が足りないために、あとから来て帰って行こうとする大学生のあるのを聞いて、源氏はその人々を別に釣殿《つりどの》のほうでもてなした。贈り物もした。式が終わって退出しようとする博士と詩人をまた源氏はとどめて詩を作ることにした。高官や殿上役人もそのほうの才のある人は皆残したのである。博士たちは律の詩、源氏その他の人は絶句を作るのであった。おもしろい題を文章博士《もんじょうはかせ》が選んだ。短夜のころであったから、夜がすっかり明けてから詩は講ぜられた。左中弁《さちゅうべん》が講師の役をしたのである。きれいな男の左中弁が重々しい神さびた調子で詩を読み上げるのが感じよく思われた。この人はことに
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