夕方に風の吹き出した日、中宮はいろいろの秋の花紅葉を箱の蓋《ふた》に入れて紫夫人へお贈りになるのであった。やや大柄な童女が深紅《しんく》の袙《あこめ》を着、紫苑《しおん》色の厚織物の服を下に着て、赤|朽葉《くちば》色の汗袗《かざみ》を上にした姿で、廊の縁側を通り渡殿《わたどの》の反橋《そりはし》を越えて持って来た。お后が童女をお使いになることは正式な場合にあそばさないことなのであるが、彼らの可憐《かれん》な姿が他の使いにまさると宮は思召したのである。御所のお勤めに馴《な》れている子供は、外の童女と違った洗練された身のとりなしも見えた。お手紙は、
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心から春待つ園はわが宿の紅葉を風のつてにだに見よ
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というのであった。若い女房たちはお使いをもてはやしていた。こちらからはその箱の蓋へ、下に苔《こけ》を敷いて、岩を据《す》えたのを返しにした。五葉の枝につけたのは、
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風に散る紅葉は軽し春の色を岩根の松にかけてこそ見め
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という夫人の歌であった。よく見ればこの岩は作り物であった。すぐにこうし
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