わらせぬように源氏は扱うのである。源氏は自身の経験によって危険がるのか、そういうふうであったから、女房たちすらも若君と親しくする者はいないのであるが、今日は混雑の紛れに室内へもはいって行ったものらしい。車で着いた舞い姫をおろして、妻戸の所の座敷に、屏風《びょうぶ》などで囲いをして、舞い姫の仮の休息所へ入れてあったのを、若君はそっと屏風の後ろからのぞいて見た。苦しそうにして舞い姫はからだを横向きに長くしていた。ちょうど雲井《くもい》の雁《かり》と同じほどの年ごろであった。それよりも少し背が高くて、全体の姿にあざやかな美しさのある点は、その人以上にさえも見えた。暗かったからよくは見えないのであるが、年ごろが同じくらいで恋人の思われる点がうれしくて、恋が移ったわけではないがこれにも関心は持たれた。若君は衣服の褄先《つまさき》を引いて音をさせてみた。思いがけぬことで怪しがる顔を見て、

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「天《あめ》にます豊岡《とよをか》姫の宮人もわが志すしめを忘るな
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『みづがきの』(久しき世より思ひ初《そ》めてき)」
 と言ったが、藪《やぶ》から棒ということ
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