たてになって、どんなことをお言い出しになるかしれないばかしか、大納言家でもこれをお聞きになったらどうお思いになることだろう。貴公子でおありになっても、最初の殿様が浅葱《あさぎ》の袍《ほう》の六位の方とは」
 こう言う声も聞こえるのであった。すぐ二人のいる屏風《びょうぶ》の後ろに来て乳母はこぼしているのである。若君は自分の位の低いことを言って侮辱しているのであると思うと、急に人生がいやなものに思われてきて、恋も少しさめる気がした。
「そらあんなことを言っている。

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くれなゐの涙に深き袖《そで》の色を浅緑とやいひしをるべき
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 恥ずかしくてならない」
 と言うと、

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いろいろに身のうきほどの知らるるはいかに染めける中の衣ぞ
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 と雲井の雁が言ったか言わぬに、もう大臣が家の中にはいって来たので、そのまま雲井の雁は立ち上がった。取り残された見苦しさも恥ずかしくて、悲しみに胸をふさがらせながら、若君は自身の居間へはいって、そこで寝つこうとしていた。三台ほどの車に分乗して姫君の一行は邸《やしき》をそ
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