いちょう》なところのない少年であったから、よく忍んで、どうかして早く読まねばならぬ本だけは皆読んで、人並みに社会へ出て立身の道を進みたいと一所懸命になったから、四、五か月のうちに史記などという書物は読んでしまった。もう大学の試験を受けさせてもよいと源氏は思って、その前に自身の前で一度学力をためすことにした。例の伯父《おじ》の右大将、式部|大輔《だゆう》、左中弁などだけを招いて、家庭教師の大内記に命じて史記の中の解釈のむずかしいところの、寮試の問題に出されそうな所々を若君に読ますのであったが、若君は非常に明瞭《めいりょう》に難解なところを幾通りにも読んで意味を説明することができた。師の爪《つめ》じるしは一か所もつける必要のないのを見て、人々は若君に学問をする天分の豊かに備わっていることを喜んだ。伯父の大将はまして感動して、
「父の大臣が生きていられたら」
と言って泣いていた。源氏も冷静なふうを作ろうとはしなかった。
「世間の親が愛におぼれて、子に対しては正当な判断もできなくなっているなどと私は見たこともありますが、自分のことになってみると、それは子が大人になっただけ親はぼけていくのでや
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