様子がうかがわれるのであった。侍を呼んで小声でささやきながら手紙を渡す源氏を女房たちは憎く思った。その晩は御所で宿直《とのい》もするはずであるが、夫人の機嫌《きげん》の直っていなかったことを思って、夜はふけていたが源氏は夫人をなだめるつもりで帰って来ると、大井の返事を使いが持って来た。隠すこともできずに源氏は夫人のそばでそれを読んだ。夫人を不愉快にするようなことも書いてなかったので、
「これを破ってあなたの手で捨ててください。困るからね、こんな物が散らばっていたりすることはもう私に似合ったことではないのだからね」
と夫人のほうへそれを出した源氏は、脇息《きょうそく》によりかかりながら、心のうちでは大井の姫君が恋しくて、灯《ひ》をながめて、ものも言わずにじっとしていた。手紙はひろがったままであるが、女王《にょおう》が見ようともしないのを見て、
「見ないようにしていて、目のどこかであなたは見ているじゃありませんか」
と笑いながら夫人に言いかけた源氏の顔にはこぼれるような愛嬌《あいきょう》があった。夫人のそばへ寄って、
「ほんとうはね、かわいい子を見て来たのですよ。そんな人を見るとやはり
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