源氏は、もう一度続きの夢が見られるかとわざわざ寝入ろうとしたが、眠りえないままで夜明けになった。
 渚《なぎさ》のほうに小さな船を寄せて、二、三人が源氏の家のほうへ歩いて来た。だれかと山荘の者が問うてみると、明石《あかし》の浦から前播磨守《さきのはりまのかみ》入道が船で訪《たず》ねて来ていて、その使いとして来た者であった。
「源《げん》少納言さんがいられましたら、お目にかかって、お訪ねいたしました理由を申し上げます」
 と使いは入道の言葉を述べた。驚いていた良清《よしきよ》は、
「入道は播磨での知人で、ずっと以前から知っておりますが、私との間には双方で感情の害されていることがあって、格別に交際《つきあい》をしなくなっております。それが風波の害のあった際に何を言って来たのでしょう」
 と言って訳がわからないふうであった。源氏は昨夜の夢のことが胸中にあって、
「早く逢《あ》ってやれ」
 と言ったので、良清《よしきよ》は船へ行って入道に面会した。あんなにはげしい天気のあとでどうして船が出されたのであろうと良清はまず不思議に思った。
「この月一日の夜に見ました夢で異形《いぎょう》の者からお告げ
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