氏は興味を覚えて、
「この十三絃という物は、女が柔らかみをもってあまり定《き》まらないふうに弾いたのが、おもしろくていいのです」
などと言っていた。源氏の意はただおおまかに女ということであったが、入道は訳もなくうれしい言葉を聞きつけたように、笑《え》みながら言う、
「あなた様があそばす以上におもしろい音《ね》を出しうるものがどこにございましょう。私は延喜《えんぎ》の聖帝から伝わりまして三代目の芸を継いだ者でございますが、不運な私は俗界のこととともに音楽もいったんは捨ててしまったのでございましたが、憂鬱《ゆううつ》な気分になっております時などに時々弾いておりますのを、聞き覚えて弾きます子供が、どうしたのでございますか私の祖父の親王によく似た音を出します。それは法師の僻耳《ひがみみ》で、松風の音をそう感じているのかもしれませんが、一度お聞きに入れたいものでございます」
興奮して慄《ふる》えている入道は涙もこぼしているようである。
「松風が邪魔《じゃま》をしそうな所で、よくそんなにお稽古《けいこ》ができたものですね、うらやましいことですよ」
源氏は琴を前へ押しやりながらまた言葉を続けた
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