ることすら結果は相当に恐ろしいのである、気の進まぬことも自分より年長者であったり、上の地位にいる人の言葉には随《したが》うべきである。退いて咎《とが》なしと昔の賢人も言った、あくまで謙遜《けんそん》であるべきである。もう自分は生命《いのち》の危《あぶな》いほどの目を幾つも見せられた、臆病《おくびょう》であったと言われることを不名誉だと考える必要もない。夢の中でも父帝は住吉《すみよし》の神のことを仰せられたのであるから、疑うことは一つも残っていないと思って、源氏は明石へ居を移す決心をして、入道へ返辞を伝えさせた。
「知るべのない所へ来まして、いろいろな災厄《さいやく》にあっていましても、京のほうからは見舞いを言い送ってくれる者もありませんから、ただ大空の月日だけを昔|馴染《なじみ》のものと思ってながめているのですが、今日船を私のために寄せてくだすってありがたく思います。明石には私の隠栖《いんせい》に適した場所があるでしょうか」
入道は申し入れの受けられたことを非常によろこんで、恐縮の意を表してきた。ともかく夜が明けきらぬうちに船へお乗りになるがよいということになって、例の四、五人だけが
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