会談があったはずである。
源氏は明石から送って来た使いに手紙を持たせて帰した。夫人にはばかりながらこまやかな情を女に書き送ったのである。
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毎夜毎夜悲しく思っているのですか、
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歎きつつ明石の浦に朝霧の立つやと人を思ひやるかな
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こんな内容であった。
大弐《だいに》の娘の五節《ごせち》は、一人でしていた心の苦も解消したように喜んで、どこからとも言わせない使いを出して、二条の院へ歌を置かせた。
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須磨の浦に心を寄せし船人のやがて朽《く》たせる袖《そで》を見せばや
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字は以前よりずっと上手《じょうず》になっているが、五節に違いないと源氏は思って返事を送った。
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かへりてはかごとやせまし寄せたりし名残《なごり》に袖の乾《ひ》がたかりしを
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源氏はずいぶん好きであった女であるから、誘いかけた手紙を見ては訪ねたい気がしきりにするのであるが、当分は不謹慎なこともできないように思われた。花散里《はなちるさと》などへも手紙を送るだけで、逢いには行こうとしないのであったから、かえって京に源氏のいなかったころよりも寂しく思っていた。
底本:「全訳源氏物語 上巻」角川文庫、角川書店
1971(昭和46)年8月10日改版初版発行
1994(平成6)年12月20日56版発行
※このファイルは、古典総合研究所(http://www.genji.co.jp/)で入力されたものを、青空文庫形式にあらためて作成しました。
※校正には、2002(平成14)年4月5日71版を使用しました。
入力:上田英代
校正:鈴木厚司
2003年7月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
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