陽師《おんみょうじ》を雇って源氏は禊《はら》いをさせた。船にやや大きい禊いの人形を乗せて流すのを見ても、源氏はこれに似た自身のみじめさを思った。

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知らざりし大海の原に流れ来て一方にやは物は悲しき
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 と歌いながら沙上《しゃじょう》の座に着く源氏は、こうした明るい所ではまして水ぎわだって見えた。少し霞《かす》んだ空と同じ色をした海がうらうらと凪《な》ぎ渡っていた。果てもない天地をながめていて、源氏は過去未来のことがいろいろと思われた。

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八百《やほ》よろづ神も憐《あは》れと思ふらん犯せる罪のそれとなければ
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 と源氏が歌い終わった時に、風が吹き出して空が暗くなってきた。御禊《みそぎ》の式もまだまったく終わっていなかったが人々は立ち騒いだ。肱笠雨《ひじがさあめ》というものらしくにわか雨が降ってきてこの上もなくあわただしい。一行は浜べから引き上げようとするのであったが笠を取り寄せる間もない。そんな用意などは初めからされてなかった上に、海の風は何も何も吹き散らす。夢中で家のほうへ走り出すころに
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