あいちょう》を裏切って情人を持った点をお憎みになったのであるが、赦免の宣旨《せんじ》が出て宮中へまたはいることになっても、尚侍の心は源氏の恋しさに満たされていた。七月になってその事が実現された。非常なお気に入りであったのであるから、人の譏《そし》りも思召《おぼしめ》さずに、お常御殿の宿直所《とのいどころ》にばかり尚侍は置かれていた。お恨みになったり、永久に変わらぬ愛の誓いを仰せられたりする帝の御|風采《ふうさい》はごりっぱで、優美な方なのであるが、これを飽き足らぬものとは自覚していないが、なお尚侍には源氏ばかりが恋しいというのはもったいない次第である。音楽の合奏を侍臣たちにさせておいでになる時に、帝は尚侍へ、
「あの人がいないことは寂しいことだ。私でもそう思うのだから、ほかにはもっと痛切にそう思われる人があるだろう。何の上にも光というものがなくなった気がする」
と仰せられるのであった。それからまた、
「院の御遺言にそむいてしまった。私は死んだあとで罰せられるに違いない」
と涙ぐみながらお言いになるのを聞いて、尚侍は泣かずにいられなかった。
「人生はつまらないものだという気がしてきて
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