大人らしくなっておいでになる愛らしい御様子で、しばらくぶりでお逢いになる喜びが勝って、今の場合も深くおわかりにならず、無邪気にうれしそうにして院の前へおいでになったのも哀れであった。その横で中宮《ちゅうぐう》が泣いておいでになるのであるから、院のお心はさまざまにお悲しいのである。種々と御教訓をお残しになるのであるが、幼齢の東宮にこれがわかるかどうかと疑っておいでになる御心《みこころ》からそこに寂しさと悲しさがかもされていった。源氏にも朝家《ちょうけ》の政治に携わる上に心得ていねばならぬことをお教えになり、東宮をお援《たす》けせよということを繰り返し繰り返し仰せられた。夜がふけてから東宮はお帰りになった。還啓に供奉《ぐぶ》する公卿《こうけい》の多さは行幸にも劣らぬものだった。御秘蔵子の東宮のお帰りになったのちの院の御心は最もお悲しかった。皇太后もおいでになるはずであったが、中宮がずっと院に添っておいでになる点が御不満で、躊躇《ちゅうちょ》あそばされたうちに院は崩御《ほうぎょ》になった。御仁慈の深い君にお別れしてどんなに多数の人が悲しんだかしれない。院の御位《みくらい》にお変わりあそばした
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