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そのかみを今日《けふ》はかけじと思へども心のうちに物ぞ悲しき
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 御息所の歌である。斎宮は十四でおありになった。きれいな方である上に、錦繍《きんしゅう》に包まれておいでになったから、この世界の女人《にょにん》とも見えないほどお美しかった。斎王の美に御心《みこころ》を打たれながら、別れの御櫛《みぐし》を髪に挿《さ》してお与えになる時、帝《みかど》は悲しみに堪えがたくおなりになったふうで悄然《しょうぜん》としておしまいになった。式の終わるのを八省院《はっしょういん》の前に待っている斎宮の女房たちの乗った車から見える袖《そで》の色の美しさも今度は特に目を引いた。若い殿上役人が寄って行って、個人個人の別れを惜しんでいた。暗くなってから行列は動いて、二条から洞院《とういん》の大路《おおじ》を折れる所に二条の院はあるのであったから、源氏は身にしむ思いをしながら、榊《さかき》に歌を挿《さ》して送った。

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ふりすてて今日は行くとも鈴鹿《すずか》川|八十瀬《やそせ》の波に袖は濡れじや
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 その時はもう暗
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