、その自信はない」
と言って、灯《ひ》を見つめている源氏の目に涙が光っていた。特別に夫人がかわいがっていた親もない童女が、心細そうな顔をしているのを、もっともであると源氏は哀れに思った。
「あてき[#「あてき」に傍点]はもう私にだけしかかわいがってもらえない人になったのだね」
源氏がこう言うと、その子は声を立てて泣くのである。からだ相応な短い袙《あこめ》を黒い色にして、黒い汗袗《かざみ》に樺《かば》色の袴《はかま》という姿も可憐《かれん》であった。
「奥さんのことを忘れない人は、つまらなくても我慢して、私の小さい子供といっしょに暮らしていてください。皆が散り散りになってしまってはいっそう昔が影も形もなくなってしまうからね。心細いよそんなことは」
源氏が互いに長く愛を持っていこうと行っても、女房たちはそうだろうか、昔以上に待ち遠しい日が重なるのではないかと不安でならなかった。
大臣は女房たちに、身分や年功で差をつけて、故人の愛した手まわりの品、それから衣類などを、目に立つほどにはしないで上品に分けてやった。
源氏はこうした籠居《こもりい》を続けていられないことを思って、院の御所
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