なって、病気らしくなった。源氏は初めから伊勢へ行くことに断然不賛成であるとも言い切らずに、
「私のようなつまらぬ男を愛してくだすったあなたが、いやにおなりになって、遠くへ行ってしまうという気になられるのはもっともですが、寛大な心になってくだすって変わらぬ恋を続けてくださることで前生《ぜんしょう》の因縁を全《まった》くしたいと私は願っている」
 こんなふうにだけ言って留めているのであったから、そうした物思いも慰むかと思って出た御禊川《みそぎがわ》に荒い瀬が立って不幸を見たのである。
 葵《あおい》夫人は物怪《もののけ》がついたふうの容体で非常に悩んでいた。父母たちが心配するので、源氏もほかへ行くことが遠慮される状態なのである。二条の院などへもほんの時々帰るだけであった。夫婦の中は睦《むつ》まじいものではなかったが、妻としてどの女性よりも尊重する心は十分源氏にあって、しかも妊娠しての煩いであったから憐《あわれ》みの情も多く加わって、修法《しゅほう》や祈祷《きとう》も大臣家でする以外にいろいろとさせていた。物怪《もののけ》、生霊《いきりょう》というようなものがたくさん出て来て、いろいろな名乗
前へ 次へ
全64ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング