りませんか。こちらの場所をお譲りしてもよろしいのですよ」
 という挨拶《あいさつ》である。どこの風流女のすることであろうと思いながら、そこは実際よい場所でもあったから、その車に並べて源氏は車を据《す》えさせた。
「どうしてこんなよい場所をお取りになったかとうらやましく思いました」
 と言うと、品のよい扇の端を折って、それに書いてよこした。

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はかなしや人のかざせるあふひ故《ゆゑ》神のしるしの今日を待ちける

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注連《しめ》を張っておいでになるのですもの。
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 源典侍《げんてんじ》の字であることを源氏は思い出したのである。どこまで若返りたいのであろうと醜く思った源氏は皮肉に、

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かざしける心ぞ仇《あだ》に思ほゆる八十氏《やそうぢ》人になべてあふひを
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 と書いてやると、恥ずかしく思った女からまた歌が来た。

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くやしくも挿《かざ》しけるかな名のみして人だのめなる草葉ばかりを
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 今日の源氏が女の同乗者を持っていて、簾《みす
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