后と一口に申し上げても、この方の御身分は后腹の内親王であった。全《まった》い宝玉のように輝やくお后と見られたのである。それに帝の御|寵愛《ちょうあい》もたいしたものであったから、満廷の官人がこの后に奉仕することを喜んだ。道理のほかまでの好意を持った源氏は、御輿《みこし》の中の恋しいお姿を想像して、いよいよ遠いはるかな、手の届きがたいお方になっておしまいになったと心に歎《なげ》かれた。気が変になるほどであった。

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つきもせぬ心の闇《やみ》にくるるかな雲井に人を見るにつけても
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 こう思われて悲しいのである。
 若宮のお顔は御生育あそばすにつれてますます源氏に似ておいきになった。だれもそうした秘密に気のつく者はないようである。何をどう作り変えても源氏と同じ美貌《びぼう》を見うることはないわけであるが、この二人の皇子は月と日が同じ形で空にかかっているように似ておいでになると世人も思った。
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(訳注) この巻も前二巻と同年の秋に始まって、源氏十九歳の秋までが書かれている。
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底本:「全訳源氏物
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