つものがあった。「瓜《うり》作りになりやしなまし」という歌を、美声ではなやかに歌っているのには少し反感が起こった。白楽天が聞いたという鄂州《がくしゅう》の女の琵琶もこうした妙味があったのであろうと源氏は聞いていたのである。弾きやめて女は物思いに堪えないふうであった。源氏は御簾《みす》ぎわに寄って催馬楽《さいばら》の東屋《あずまや》を歌っていると、「押し開いて来ませ」という所を同音で添えた。源氏は勝手の違う気がした。
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立ち濡《ぬ》るる人しもあらじ東屋にうたてもかかる雨そそぎかな
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と歌って女は歎息《たんそく》をしている。自分だけを対象としているのではなかろうが、どうしてそんなに人が待たれるのであろうと源氏は思った。
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人妻はあなわづらはし東屋のまやのあまりも馴《な》れじとぞ思ふ
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と言い捨てて、源氏は行ってしまいたかったのであるが、あまりに侮辱したことになると思って典侍の望んでいたように室内へはいった。源氏は女と朗らかに戯談《じょうだん》などを言い合っているうちに、こうした境地も悪く
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