た私たちは直接にお話ができるのだろう」
と言って泣く源氏が王命婦の目には気の毒でならない。
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「いかさまに昔結べる契りにてこの世にかかる中の隔てぞ
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わからない、わからない」
とも源氏は言うのである。命婦は宮の御|煩悶《はんもん》をよく知っていて、それだけ告げるのが恋の仲介《なかだち》をした者の義務だと思った。
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「見ても思ふ見ぬはたいかに歎《なげ》くらんこや世の人の惑ふてふ闇《やみ》
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どちらも同じほどお気の毒だと思います」
と命婦は言った。取りつき所もないように源氏が悲しんで帰って行くことも、度が重なれば邸《やしき》の者も不審を起こしはせぬかと宮は心配しておいでになって王命婦をも昔ほどお愛しにはならない。目に立つことをはばかって何ともお言いにはならないが、源氏への同情者として宮のお心では命婦をお憎みになることもあるらしいのを、命婦はわびしく思っていた。意外なことにもなるものであると歎《なげ》かれたであろうと思われる。
四月に若宮は母宮につれられて宮中へおはいりになった。普
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