宮家から贈った衣箱の中へ、源氏が他から贈られた白い小袖《こそで》の一重ね、赤紫の織物の上衣《うわぎ》、そのほかにも山吹《やまぶき》色とかいろいろな物を入れたのを命婦が持たせてよこした。
「こちらでお作りになったのがよい色じゃなかったというあてつけの意味があるのではないでしょうか」
 と一人の女房が言うように、だれも常識で考えてそうとれるのであるが、
「でもあれだって赤くて、重々しいできばえでしたよ。まさかこちらの好意がむだになるということはないはずですよ」
 老いた女どもはそう決めてしまった。
「お歌だって、こちらのは意味が強く徹底しておできになっていましたよ。御返歌は技巧が勝ち過ぎてますね」
 これもその連中の言うことである。末摘花《すえつむはな》も大苦心をした結晶であったから、自作を紙に書いておいた。
 元三日が過ぎてまた今年は男踏歌《おとことうか》であちらこちらと若い公達《きんだち》が歌舞をしてまわる騒ぎの中でも、寂しい常陸の宮を思いやっていた源氏は、七日の白馬《あおうま》の節会《せちえ》が済んでから、お常御殿を下がって、桐壺《きりつぼ》で泊まるふうを見せながら夜がふけてから末摘
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