は思い出して、源氏のいたずら書きをひどいと思いながらもしまいにはおかしくなった。

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「くれなゐのひとはな衣《ごろも》うすくともひたすら朽たす名をし立てずば
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 その我慢も人生の勤めでございますよ」
 理解があるらしくこんなことを言っている命婦もたいした女ではないが、せめてこれだけの才分でもあの人にあればよかったと源氏は残念な気がした。身分が身分である、自分から捨てられたというような気の毒な名は立てさせたくないと思うのが源氏の真意だった。ここへ伺候して来る人の足音がしたので、
「これを隠そうかね。男はこんな真似《まね》も時々しなくてはならないのかね」
 源氏はいまいましそうに言った。なぜお目にかけたろう、自分までが浅薄な人間に思われるだけだったと恥ずかしくなり命婦はそっと去ってしまった。
 翌日命婦が清涼殿に出ていると、その台盤所《だいばんどころ》を源氏がのぞいて、
「さあ返事だよ。どうも晴れがましくて堅くなってしまったよ」
 と手紙を投げた。おおぜいいた女官たちは源氏の手紙の内容をいろいろに想像した。「たたらめの花のごと、三笠《みかさ》
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