らの返辞を受け取ることができなかった。
「どうすればいいのです」
 と源氏は歎息《たんそく》した。

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「いくそ度《たび》君が沈黙《しじま》に負けぬらん物な云《い》ひそと云はぬ頼みに
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 言いきってくださいませんか。私の恋を受けてくださるのか、受けてくださらないかを」
 女王の乳母の娘で侍従という気さくな若い女房が、見かねて、女王のそばへ寄って女王らしくして言った。

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鐘つきてとぢめんことはさすがにて答へまうきぞかつはあやなき
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 若々しい声で、重々しくものの言えない人が代人でないようにして言ったので、貴女《きじょ》としては甘ったれた態度だと源氏は思ったが、はじめて相手にものを言わせたことがうれしくて、
「こちらが何とも言えなくなります、

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云《い》はぬをも云ふに勝《まさ》ると知りながら押しこめたるは苦しかりけり」
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 いろいろと、それは実質のあることではなくても、誘惑的にもまじめにも源氏は語り続けたが、あの歌きりほかの返辞はなかった、こん
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