た。この訪問が目的で来たと最初言わせたので、そのあとでまた惟光がはいって行って、
「主人が自身でお見舞いにおいでになりました」
と言った。大納言家では驚いた。
「困りましたね。近ごろは以前よりもずっと弱っていらっしゃるから、お逢いにはなれないでしょうが、お断わりするのはもったいないことですから」
などと女房は言って、南向きの縁座敷をきれいにして源氏を迎えたのである。
「見苦しい所でございますが、せめて御厚志のお礼を申し上げませんではと存じまして、思召《おぼしめ》しでもございませんでしょうが、こんな部屋《へや》などにお通しいたしまして」
という挨拶《あいさつ》を家の者がした。そのとおりで、意外な所へ来ているという気が源氏にはした。
「いつも御訪問をしたく思っているのでしたが、私のお願いをとっぴなものか何かのようにこちらではお扱いになるので、きまりが悪かったのです。それで自然御病気もこんなに進んでいることを知りませんでした」
と源氏が言った。
「私は病気であることが今では普通なようになっております。しかしもうこの命の終わりに近づきましたおりから、かたじけないお見舞いを受けました喜び
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