分の一も告げる時間のあるわけはない。永久の夜が欲《ほ》しいほどであるのに、逢わない時よりも恨めしい別れの時が至った。
[#ここから2字下げ]
見てもまた逢《あ》ふ夜|稀《まれ》なる夢の中《うち》にやがてまぎるるわが身ともがな
[#ここで字下げ終わり]
涙にむせ返って言う源氏の様子を見ると、さすがに宮も悲しくて、
[#ここから2字下げ]
世語りに人やつたへん類《たぐ》ひなく憂《う》き身をさめぬ夢になしても
[#ここで字下げ終わり]
とお言いになった。宮が煩悶《はんもん》しておいでになるのも道理なことで、恋にくらんだ源氏の目にももったいなく思われた。源氏の上着などは王命婦がかき集めて寝室の外へ持ってきた。源氏は二条の院へ帰って泣き寝に一日を暮らした。手紙を出しても、例のとおり御覧にならぬという王命婦の返事以外には得られないのが非常に恨めしくて、源氏は御所へも出ず二、三日引きこもっていた。これをまた病気のように解釈あそばして帝がお案じになるに違いないと思うともったいなく空恐ろしい気ばかりがされるのであった。
宮も御自身の運命をお歎《なげ》きになって煩悶が続き、そのために御病気の
前へ
次へ
全68ページ中36ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング