お生まれになって人としてのうるさい束縛や干渉をお受けにならなければならないかと思ってみると悲しくてならない」
 と源氏の君のことを言って涙をぬぐっていた。兵部卿《ひょうぶきょう》の宮の姫君は子供心に美しい人であると思って、
「宮様よりも御様子がごりっぱね」
 などとほめていた。
「ではあの方のお子様におなりなさいまし」
 と女房が言うとうなずいて、そうなってもよいと思う顔をしていた。それからは人形遊びをしても絵をかいても源氏の君というのをこしらえて、それにはきれいな着物を着せて大事がった。
 帰京した源氏はすぐに宮中へ上がって、病中の話をいろいろと申し上げた。ずいぶん痩《や》せてしまったと仰せられて帝《みかど》はそれをお気におかけあそばされた。聖人の尊敬すべき祈祷《きとう》力などについての御下問もあったのである。詳しく申し上げると、
「阿闍梨《あじゃり》にもなっていいだけの資格がありそうだね。名誉を求めないで修行一方で来た人なんだろう。それで一般人に知られなかったのだ」
 と敬意を表しておいでになった。左大臣も御所に来合わせていて、
「私もお迎えに参りたく思ったのですが、御微行《おしの
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