れて自身の気持ちの理解されないことを歎《なげ》いた。手紙を僧都の召使の小童に持たせてやった。

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夕まぐれほのかに花の色を見て今朝《けさ》は霞の立ちぞわづらふ
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 という歌である。返歌は、

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まことにや花のほとりは立ち憂《う》きと霞《かす》むる空のけしきをも見ん
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 こうだった。貴女《きじょ》らしい品のよい手で飾りけなしに書いてあった。
 ちょうど源氏が車に乗ろうとするころに、左大臣家から、どこへ行くともなく源氏が京を出かけて行ったので、その迎えとして家司《けいし》の人々や、子息たちなどがおおぜい出て来た。頭中将《とうのちゅうじょう》、左中弁《さちゅうべん》またそのほかの公達《きんだち》もいっしょに来たのである。
「こうした御旅行などにはぜひお供をしようと思っていますのに、お知らせがなくて」
 などと恨んで、
「美しい花の下で遊ぶ時間が許されないですぐにお帰りのお供をするのは惜しくてならないことですね」
 とも言っていた。岩の横の青い苔《こけ》の上に新しく来た公達は並んで、また酒盛りが始め
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