の士官が宿直者の名を披露《ひろう》するのをもってすれば午前二時になったのであろう。人目をおはばかりになって御寝室へおはいりになってからも安眠を得たもうことはできなかった。
 朝のお目ざめにもまた、夜明けも知らずに語り合った昔の御追憶がお心を占めて、寵姫《ちょうき》の在《あ》った日も亡《な》いのちも朝の政務はお怠りになることになる。お食欲もない。簡単な御朝食はしるしだけお取りになるが、帝王の御|朝餐《ちょうさん》として用意される大床子《だいしょうじ》のお料理などは召し上がらないものになっていた。それには殿上役人のお給仕がつくのであるが、それらの人は皆この状態を歎《なげ》いていた。すべて側近する人は男女の別なしに困ったことであると歎いた。よくよく深い前生の御縁で、その当時は世の批難も後宮の恨みの声もお耳には留まらず、その人に関することだけは正しい判断を失っておしまいになり、また死んだあとではこうして悲しみに沈んでおいでになって政務も何もお顧みにならない、国家のためによろしくないことであるといって、支那《しな》の歴朝の例までも引き出して言う人もあった。
 幾月かののちに第二の皇子が宮中へおは
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