私は福田博士と全く同じ考えを戦争の上に持っております。
それなら、性急に軍備の即時撤廃を望むかというと、私はそれの行われがたいことを予見します。内政のためでなくて、今日のように国際のために設けられた軍備は、露西亜《ロシヤ》のレニン一派の政府のように極端な無抵抗主義に殉じるの愚を演じない限り、一国だけが単独に撤廃されるものではありません。それは列国の合意の下で円滑に実行される日に向って期待すべきことで、今からその日の到来を早くすることに努力するのが自然の順序だと思います。
私は遺憾ながら或程度の軍備保存はやむをえないことだと思います。国内の秩序を衛《まも》るために巡査の必要があるように、国際の平和と通商上の利権とを自衛するために国家としては軍備を或程度まで必要とします。これは決して永久のことでなく、列国が同時に軍備を撤廃し得る事情に達する日までの必要において変則的に保存されるばかりです。その「或程度」というのはあくまでも「自衛」の範囲を越えないことを意味します。それを越ゆれば軍国主義や侵略主義のための軍備に堕落することになります。私は日本の軍備が夙《つと》にこの程度を甚だしく越えていることを恐ろしく思っております。
さて我国は何のために出兵するのでしょうか。秘密主義の軍閥政府は出兵についてまだ今日まで一言も口外しませんから、私たちは外国電報と在野の出兵論者の議論とに由って想像する外ありませんが、政府に出兵の意志の十分にあることは、干渉好きの政府が出兵論者の極端な議論を抑制しない上に、議会において出兵の無用を少しも明言しないので解ります。
英仏が我国に出兵を強要して、露西亜の反過激派を救援し、少くも莫斯科《モスクワ》以東の地を独逸勢力の東漸から独立させたい希望のあることは明かですが、これは日本軍が自衛の範囲を越えて露西亜の護衛兵となるのですから、名義は立派なようでも断じて応じることの出来ない問題です。露国は露人自身が衛るべきものだと思います。露人に全く、自衛の力がないとは思われません。それに果して独逸の勢力が東漸するか、露国の反過激派が日本に信頼するかも疑問です。
今一つの出兵理由は、西比利亜《シベリヤ》に独逸の勢力が及ばない先に、出兵に由って予めそれを防ぐことは、西比利亜に接近している我国が独逸から受ける脅威に対して取る積極的自衛策であるという説です。これが
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング