又
学校にゐた頃の事、授業が終つて二階から降りて来た。外にはいつの間《ま》にか、雨がざあざあ降つてゐた。僕は自分の下駄《げた》を履《は》く為に下駄の置き場所へ行つたのである。そこにはあるべき下駄がなかつた。いくら捜《さが》してもない。僕は上草履《うはざうり》をはいてゐた。外には雨がひどく降つてゐる。
全く弱つて仕舞《しま》つた。併《しか》しそこには僕のでない汚《きたな》い下駄は一足あつたのである。それを欲しいと思つた。とりたいと思つた。
結局その時はその下駄をとらなかつたが、あの場合あの下駄をとつたとしても、それは仕方のない事だと思ふ。
[#地から1字上げ](大正十五年二月)
底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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