うたい》から覚めて見ると、自分は日本橋の家の二階で、氷嚢《ひょうのう》を頭に当てながら、静に横になっていました。枕元には薬罎《くすりびん》や検温器と一しょに、小さな朝顔の鉢があって、しおらしい瑠璃《るり》色の花が咲いていますから、大方《おおかた》まだ朝の内なのでしょう。雨、雷鳴、お島婆さん、お敏、――そんな記憶をぼんやり辿りながら、新蔵はふと眼を傍へ転ずると、思いがけなくそこの葭戸際《よしどぎわ》には、銀杏返《いちょうがえ》しの鬢《びん》がほつれた、まだ頬の色の蒼白いお敏が、気づかわしそうに坐っていました。いや、坐っているばかりか、新蔵が正気に返ったのを見ると、たちまちかすかに顔を赤らめて、「若旦那様、御気がつきなさいましたか。」と、つつましく声をかけたじゃありませんか。「お敏。」――新蔵はまだ夢を見ているような心もちで、こう恋人の名を呟《つぶや》きましたが、その時また枕もとで、「まあ、これでやっと安心した。――おっと、そのまま、そのまま、なるべく静にしていなくっちゃいけないぜ。」と、これもやはり思いがけない泰さんの声が聞えました。「君もいたのか。」「僕もいるしさ。君の阿母《おかあ》さ
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