んの女帯が、滔々たる当世の西陣織と比較して、――と云ふよりは呉織《くれはとり》綾織《あやはとり》から川島甚兵衛に至るまで、上下二千年の織工史を通じて、如何なる地歩を占むべきものか、その辺の消息に至つては、毫《がう》もわからぬと云ふ外はない。従つて私の推称が其影の薄いものになる事は、龍村さんの為にも、私自身の為にも遺憾千万な次第であるが、同時に又それだからこそ、私は御同業の芸術家諸君を妄《みだり》に貶しめる無礼もなく、安んじて龍村さんの女帯を天下に推称する事が出来るのである。これは御同業の芸術家諸君の為にも、惹いては私自身の為にも、御同慶の至りと云はざるを得ない。
龍村さんの帯地の多くは、その独特な経緯の組織を文字通り縦横に活かした結果、蒔絵の如き、堆朱《つゐしゆ》の如き、螺鈿《らでん》の如き、金唐革《きんからかは》の如き、七宝の如き、陶器の如き、乃至《ないし》は竹刻《たけぼり》金石刻《きんせきぼり》の如き、種々雑多な芸術品の特色を自由自在に捉へてゐる。が、私の感服したのは、単にそれらの芸術品を模し得た面白さばかりではない。もしその以外に何もなかつたなら、近来諸方に頻出する、油絵具を使
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