いるのを眺めながら、腹を立てたような声で、
――痛うはないて。
と答えた。実際鼻はむず痒い所を踏まれるので、痛いよりもかえって気もちのいいくらいだったのである。
しばらく踏んでいると、やがて、粟粒《あわつぶ》のようなものが、鼻へ出来はじめた。云わば毛をむしった小鳥をそっくり丸炙《まるやき》にしたような形である。弟子の僧はこれを見ると、足を止めて独り言のようにこう云った。
――これを鑷子《けぬき》でぬけと申す事でござった。
内供は、不足らしく頬をふくらせて、黙って弟子の僧のするなりに任せて置いた。勿論弟子の僧の親切がわからない訳ではない。それは分っても、自分の鼻をまるで物品のように取扱うのが、不愉快に思われたからである。内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして、不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から鑷子《けぬき》で脂《あぶら》をとるのを眺めていた。脂は、鳥の羽の茎《くき》のような形をして、四分ばかりの長さにぬけるのである。
やがてこれが一通りすむと、弟子の僧は、ほっと一息ついたような顔をして、
――もう一度、これを茹でればようござる。
と云った。
内供はやはり
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