を見出して、せめても幾分の心やりにしようとさえ思った事がある。けれども、目連《もくれん》や、舎利弗《しゃりほつ》の鼻が長かったとは、どの経文にも書いてない。勿論|竜樹《りゅうじゅ》や馬鳴《めみょう》も、人並の鼻を備えた菩薩《ぼさつ》である。内供は、震旦《しんたん》の話の序《ついで》に蜀漢《しょくかん》の劉玄徳《りゅうげんとく》の耳が長かったと云う事を聞いた時に、それが鼻だったら、どのくらい自分は心細くなくなるだろうと思った。
 内供がこう云う消極的な苦心をしながらも、一方ではまた、積極的に鼻の短くなる方法を試みた事は、わざわざここに云うまでもない。内供はこの方面でもほとんど出来るだけの事をした。烏瓜《からすうり》を煎《せん》じて飲んで見た事もある。鼠の尿《いばり》を鼻へなすって見た事もある。しかし何をどうしても、鼻は依然として、五六寸の長さをぶらりと唇の上にぶら下げているではないか。
 所がある年の秋、内供の用を兼ねて、京へ上った弟子《でし》の僧が、知己《しるべ》の医者から長い鼻を短くする法を教わって来た。その医者と云うのは、もと震旦《しんたん》から渡って来た男で、当時は長楽寺《ちょう
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