「己《おれ》は画でも津田《つだ》に頭を下げさせるやうなものを描《か》いてやる」と力《りき》んでゐられたさうである。そこで津田青楓《つだせいふう》さんに御相談申し上げるが、技巧は兎《と》も角《かく》も、気品《きひん》の点へ行《ゆ》くと、先生の画の中には、あなたが頭を御下《おさ》げになつても、恥しくないものがありやしませんか。これは私《わたし》自身が頭を下げるから、さうして平生あなたがかう云ふ問題には公明正大な事をよく承知してゐるから、それで伺《うかが》つて見たいと思ふ。
 前に書き忘れたが、鳴雪翁《めいせつをう》の画も面白く拝見した。昔、初午《はつうま》に稲荷《いなり》へ行《ゆ》くと、よく鳥居をくぐる途《みち》に地口《ぢぐち》の行燈《あんどん》がならんでゐた。あれはその行燈の絵を髣髴《はうふつ》させる所が甚だ風流である。
 まだいろいろ思ひついた事があるが、目下《もくか》多忙の際だから、これだけで御免《ごめん》を蒙《かうむ》りたい。
[#地から1字上げ](大正七年十一月)



底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
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