14−75]が音もなく川から立ち昇るように、うらうらと高く昇ってしまった。……
 それから幾千年かを隔てた後《のち》、この魂は無数の流転《るてん》を閲《けみ》して、また生を人間《じんかん》に託さなければならなくなった。それがこう云う私に宿っている魂なのである。だから私は現代に生れはしたが、何一つ意味のある仕事が出来ない。昼も夜も漫然と夢みがちな生活を送りながら、ただ、何か来《きた》るべき不可思議なものばかりを待っている。ちょうどあの尾生が薄暮《はくぼ》の橋の下で、永久に来ない恋人をいつまでも待ち暮したように。
[#地から1字上げ](大正八年十二月)



底本:「芥川龍之介全集3」ちくま文庫、筑摩書房
   1986(昭和61)年12月1日第1刷発行
   1996(平成8)年4月1日第8刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年12月8日公開
2004年3月7日修正
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