《ぎけん》』と云う活動写真の流行したことを。あの黒犬こそ白だったのです。しかしまだ不幸にも御存じのない方《かた》があれば、どうか下《しも》に引用した新聞の記事を読んで下さい。
 東京日日新聞[#「東京日日新聞」はゴシック体]。昨十八日(五月)午前八時|四十分《しじっぷん》、奥羽線上《おううせんのぼ》り急行列車が田端駅《たばたえき》附近の踏切《ふみきり》を通過する際、踏切番人の過失に依《よ》り、田端一二三会社員|柴山鉄太郎《しばやまてつたろう》の長男|実彦《さねひこ》(四歳《しさい》)が列車の通る線路内に立ち入り、危く轢死《れきし》を遂《と》げようとした。その時|逞《たくま》しい黒犬が一匹、稲妻《いなずま》のように踏切へ飛びこみ、目前に迫《せま》った列車の車輪から、見事に実彦を救い出した。この勇敢なる黒犬は人々の立騒《たちさわ》いでいる間《あいだ》にどこかへ姿を隠したため、表彰《ひょうしょう》したいにもすることが出来ず、当局は大いに困っている。
 東京朝日新聞[#「東京朝日新聞」はゴシック体]。軽井沢《かるいざわ》に避暑中のアメリカ富豪エドワアド・バアクレエ氏の夫人はペルシア産の猫を寵愛
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