うど》じゃ。その方づれ如き、小乗臭糞《しょうじょうしゅうふん》の持戒者が、妄《みだり》に足を容《い》るべきの仏国でない。」
こう云って阿闍梨は容《かたち》をあらためると、水晶の念珠を振って、苦々《にがにが》しげに叱りつけた。
「業畜《ごうちく》、急々に退《の》き居ろう。」
すると、翁《おきな》は、黄いろい紙の扇を開いて、顔をさしかくすように思われたが、見る見る、影が薄くなって、蛍《ほたる》ほどになった切り燈台の火と共に、消えるともなく、ふっと消える――と、遠くでかすかながら、勇ましい一番鶏《いちばんどり》の声がした。
「春はあけぼの、ようよう白くなりゆく」時が来たのである。
[#地から1字上げ](大正五年十二月十三日)
底本:「芥川龍之介全集1」ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年9月24日第1刷発行
1995(平成7)年10月5日第13刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:earthian
1998年11月11日公開
2004年3月7日修正
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