《ぼく》は又滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》の病中《びょうちゅう》にも一|度《ど》しか見舞《みま》うことが出来なかった。滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》は昔《むかし》夏目[#「夏目」に丸傍点]先生が「金太郎」とあだ[#「あだ」に傍点]名した滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》とは別人《べつじん》かと思《おも》うほど憔悴《しょうすい》していた。が、僕《ぼく》や僕《ぼく》と一しょに行った室生犀生[#「室生犀生」に丸傍点]君《くん》に画帖《がじょう》などを示《しめ》し、相変《あいかわ》らず元気《げんき》に話《はなし》をした。
滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》に最後《さいご》に会《あ》ったのは今年の初夏《しょか》、丁度《ちょうど》ドラマ・リイグの見物日《けんぶつび》に新橋《しんばし》演舞場《えんぶじょう》へ行った時である。小康《しょうこう》を得《え》た滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》は三人のお嬢《じょう》さんたちと見物《けんぶつ》に来ていた。僕《ぼく》はその顔《かお》を眺《なが》めた時、思《おも》わず「ずいぶんやせましたね」といった。この言葉《ことば》はもちろん滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》に不快《ふかい》を与《あた》えたのに違《ちが》いなかった。滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》は僕《ぼく》と一しょにいた佐佐木茂索[#「佐佐木茂索」に丸傍点]君《くん》を顧《かえり》みながら、「芥川[#「芥川」に丸傍点]さんよりも痩せていますか?」といった。
◇
滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》の訃《ふ》に接《せっ》したのは、十月二十七日の夕刻《ゆうこく》である。僕《ぼく》は室生犀生[#「室生犀生」に丸傍点]君《くん》と一しょに滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》の家へ悔みに行った。滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》は庭《にわ》に面《めん》した座敷《ざしき》に北を枕《まくら》に横《よこ》たわっていた。死顔《しにかお》は前に会《あ》った時より昔の滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》に近いものだった。僕《ぼく》はそのことを奥《おく》さんに話《はな》した。「これは水気が来ておりますから、……綿《わた》を含《ふく》ませたせいもあるのでございましょう。」――奥《おく》さんは僕《ぼく》にこういった。
滝田[#「滝田」に丸傍点]君《くん》についてはこの
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