家族は勿論、彼の命をも賭した風狂である。
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秋晴れたあら鬼貫《おにつら》の夕べやな
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僕はこの句を惟然の作品中でも決して名句とは思つてゐない。しかし彼の風狂はこの句の中にも見えると思つてゐる。惟然の風狂を喜ぶものは、――就中《なかんづく》軽妙を喜ぶものは何とでも勝手に感服して善い。けれども僕の信ずる所によれば、そこに僕等を動かすものは畢《つひ》に芭蕉に及ばなかつた、芭蕉に近い或詩人の慟哭《どうこく》である。若し彼の風狂を「とり乱してゐる」と言ふ批評家でもあれば、僕はこの批評家に敬意を表することを吝《をし》まないであらう。
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追記。これは「芭蕉雑記」の一部になるものである。
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[#地から2字上げ](昭和二年七月)
底本:「現代日本文学大系 43 芥川龍之介集」筑摩書房
1968(昭和43)年8月25日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月14日公開
2004年3月11日修正
青空文庫作成ファイル:
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