だ残っていた。七日ばかりの月で黄色い光がさびしかった。あたりはしんとしている。死のしずけさという思いが起ってくる。石をふみ落すとからからという音がしばらくきこえて、やがてまたもとの静けさに返ってしまう。路が偃松《はいまつ》の中へはいると、歩くたびに湿っぽい鈍い重い音ががさりがさりとする。ふいにギャアという声がした。おやと思うと案内者が「雷鳥です」と言った。形は見えない。ただやみの中から鋭い声をきいただけである。人をのろうのかもしれない。静かな、恐れをはらんだ絶嶺《ぜつれい》の大気を貫いて思わずもきいた雷鳥の声は、なんとなくあるシンボルでもあるような気がした。
[#地から2字上げ](明治四十四年ごろ)
底本:「羅生門・鼻・芋粥」角川文庫、角川書店
1950(昭和25)年10月20日初版発行
1985(昭和60)年11月10日改版38版発行
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月11日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
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