色の山々、そうしてこれらを強く照らす真夏の白い日光ばかりである。
自然というものをむきつけにまのあたりに見るような気がして自分はいよいよはげしい疲れを感ぜざるを得なかった。
朝三時
さあ行こうと中原が言う。行こうと返事をして手袋をはめているうちに中原はもう歩きだした。そうして二度目に行くよと言ったときには中原の足は自分の頭より高い所にあった。上を見るとうす暗い中に夏服の後ろ姿がよろけるように右左へゆれながら上って行く。自分もつえを持ってあとについて上りはじめた。上りはじめて少し驚いた。路といってはもとよりなんにもない。魚河岸《うおがし》へ鮪《まぐろ》がついたように雑然ところがった石の上を、ひょいひょいとびとびに上るのである。どうかするとぐらぐらとゆれるやつがある。おやと思ってその次のやつへ足をかけるとまたぐらりとくる。しかたがないから四つんばいになって猿のような形をして上る。その上にまだ暗いのでなんでも判然とわからない。ただまっ黒なものの中をうす白いものがふらふらと上ってゆくあとを、いいかげんに見当をつけてはって行くばかりである。心細いことおびただしい。おまけにきわめ
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